妹尾理子(せのお みちこ)先生コラム
家庭科からはじめる・つながる・ひろがる!
エネルギー・環境教育
毎日の生活をよりよくするため、暮らしを取り巻くあらゆることに主体的に関わり生きる力を育む家庭科。今回は、家庭科教育・環境教育の最前線で教壇に立つ妹尾理子先生に、エネルギー・環境教育の視点から、家庭科における考え方、エネルギー・環境学習を実践するうえでの大切なことなどを聞きました。また、産学官の連携により妹尾先生らが開発した、さまざまな教科や学習領域で活用できる教材についても紹介します。
妹尾 理子(せのお みちこ)先生
文教大学 教育学部教授 博士(教育学)
岡山県生まれ。東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科(生活・技術系教育講座)博士課程修了。
中学校・高等学校家庭科教諭、研究職などを経て大学教員へ。専門は生活環境教育、家庭科教育、住環境学。
小・中・高等学校家庭科教科書の編修委員。日本家庭科教育学会理事。日本家政学会編集委員会委員。日本エネルギー環境教育学会(元)理事。
著書に『住環境リテラシーを育む−家庭科から広がる持続可能な未来のための教育』(萌文社)、『生きる力をつける学習〜未来をひらく家庭科〜』(教育実務センター)など多数。『住まい方を考える本~住まいの機能と快適・安全でエコな生活~』(あかね書房)監修。
第1回 家庭科における環境学習を考える
人類全体の課題であるエネルギー・環境問題。一人ひとりのライフスタイルや行動の変革につながる具体的で実践的な学びのために、家庭科における考え方を整理し、ポイントを聞きました。
持続可能な社会の担い手を育てるために、
押さえておきたいことは?
人間の活動と地球環境問題の関係性を
総合的に理解する。
まず、右の図を見てください。これは、人間の活動と地球環境問題との関わりを表したものです。
まず、下の図を見てください。これは、人間の活動と地球環境問題との関わりを表したものです。
中央の枠に入っていた言葉を抜いて、空欄にしてみました。ここに入っていた言葉は何だと思いますか? 周りのワードとの関係性から推測してみてください。
「問題群」としての地球環境問題
出典:1990年版環境白書
図の出典は1990年(平成2年)の環境白書です。地球環境の話題は最近のことだと思っている方もいるようですが、1980年代後半には、すでに地球環境のさまざまな問題は人間の活動という要因に基づいて発生し、相互に関連し合って構成されていると認識されていました。地球環境問題は、30年以上前から深刻化していたのです。昨今、こうした背景を理解することなく環境関連の話題がブーム化しているのはよくない傾向だと感じています。
エネルギー・環境教育を行うにあたっては、人間生活と地球環境問題との関わりを総合的に理解しておく必要があります。そのための“気づき”につながる導入のための教材として、私はこの図を教育学部の授業や教員研修等で使っています。 私は説明中心の“教え込む”授業ではなく、学生自らが考え・気づきを得ることから理解を深めていく授業を心がけています。そのためには、教師がどんな問いかけをするか、何を教材として準備するかが鍵となります。教師が提示したものから、何に気づき、何を読み取り、考え、そこからどう行動するのか、授業では、さまざまなことを考える“きっかけ”を提供していきたいと考えています。
さて、先ほどの空欄に入る言葉ですが、わかりましたか? そう、「地球温暖化」です。
家庭科における環境学習の
「見方・考え方」を整理する。
家庭科で環境が扱われるようになったのは、先述の環境白書よりもう少し後のことです。1998年(平成10年)の学習指導要領の改訂において、消費者教育的な視点、資源や環境に配慮した生活の視点が盛り込まれました。
大学の授業で話すと学生はとても驚くのですが、家庭科が高校まで男女とも必修とされたのは1989年(平成元年)の学習指導要領以降です。それまでは、将来の生活が男女で異なるとして、家庭科が扱う領域(被服や調理、保育など)は女子が学ぶものとされていました。当時と比べ、今ではあらゆる生活事象が社会や経済、地球環境とのつながりの中で重視されるようになり、家庭科は大きく変わりました。
家庭科で扱う内容は、学習指導要領において「A 家族・家庭生活」、「B 衣食住の生活」、「C 消費生活・環境」の3つに整理されています。これは、小・中・高等学校の学習内容の系統性を明確にするため、2017・2018年(平成29・30年)の改訂時に整理し直されたものです。
この中で「C 消費生活・環境」は、「A 家族・家庭生活、B 衣食住の生活領域と関連を図り、実践的に学習できるようにする」と明記されています。
学習を進めるうえでは、どのような視点で物事を捉え、どのような考え方で思考していくのかという「見方・考え方」が重要になります。 家庭科では、すべての内容に共通する「生活の営みに係る見方・考え方」として、次の4つの視点を挙げています。
- 「協力・協働」
- 「よりよい生活」をめざし家族や地域の人々と関わり、協力すること。
- 「健康・快適・安全」
- 健康や快適性、安全に配慮すること。
- 「生活文化の継承・創造」
- 生活文化の大切さに気づき、伝統的な生活文化を継承し発展させること。
- 「持続可能な社会の構築」
- 責任ある消費者として、持続可能な未来のために行動すること。
「C 消費生活・環境」は、主に「持続可能な社会の構築」の視点から物事を捉えることが考えられますが、持続可能な社会とは、生活文化や伝統を受け継ぎ発展させていく社会でもあります。また、防災をはじめ安全、健康への取り組みを続ける社会でもあります。家族や地域と協力することが不可欠な社会でもあります。授業を構想する際は、学習内容の3領域、4つの視点(見方・考え方)を常に意識することが大切です。
次に、家庭科でエネルギー・環境教育を実践するにあたって、知っておきたいキーワードを紹介します。
家庭科におけるエネルギー・環境学習のキーワード その1
「エコロジカル・フットプリント」
エコロジカル・フットプリントは、人間活動が地球環境に与えている負荷の大きさを、gha(グローバルヘクタール)という独自の単位を用いて数値化したものです。その土地が供給できる再生可能な資源生産量と廃棄物吸収量に対し、現在の社会生活を維持するために必要な量がどのくらいあるかを計算し、わかりやすく「地球何個分」などと表されます。
エコロジカル・フットプリントの元になる概念は、1990年代初期にカナダで提唱され、文献には1992年に登場しました。日本では、1996年版環境白書に初めてエコロジカル・フットプリントについて触れられました。「フットプリント」とは英語で「足跡」のことで、生態系に対する「踏みつけ」面積を意味することからこの名称が付けられたといわれています。
現在、人類の資源に対する需要は地球の供給量を上回っており、世界中の人が日本と同じレベルの生活をするためには地球が2.9個分必要になるといわれています。
【出典】Global Footprint Network 2022(データ年2018) より作成
家庭科におけるエネルギー・環境学習のキーワード その2
「グリーンコンシューマリズム」
「グリーンコンシューマー」は、環境保護をイメージさせるグリーン(緑)とコンシューマー(消費者)を合わせた造語で、「環境を大切にする消費者」を意味します。1988年にイギリスで「グリーンコンシューマーガイド」という本が出版されたことから広がりました。
日本では、1999年にNPO法人 環境市民が「グリーンコンシューマーガイド」を参考に行動指針を示した「グリーンコンシューマーの10原則」をまとめました。買い物(消費生活)の授業で活用している先生方も多いのではないでしょうか。
【出典】グリーンコンシューマーになる買い物ガイド(小学館)より作成
10原則には、個人の消費(ライフスタイル)を転換する視点だけでなく、資源や環境に配慮した持続可能性のための視点、公正な社会システムへの転換の視点が示されています。
「買い物は投票」といわれます。児童生徒には、一人ひとりが批判的思考を働かせて商品選択をすることで企業が変わり、地球環境を守ることにつながる、消費者の力は社会にとても大きな影響力を持っていることに気づいてもらいたいと思います。
一方で、家庭科としては「買わずに」「作る」「オルタナティブ(代替案)を探る」という視点を取り入れることも大切な学びになると考えています。調理実習や製作実習を計画する際には、「どうすればこの題材に環境と社会の視点が入れられるか」を常に考えることが大切です。
家庭科におけるエネルギー・環境学習のキーワード その3
「ライフサイクル思考(LCT)」
「ライフサイクル思考(LCT:Life Cycle Thinking)」は、生産・消費方法などを決定する際に、製品を利用しているときだけに着目するのではなく、その製品の原料調達から製造、輸送、使用、廃棄までのライフサイクルすべての段階における環境影響を考慮することで、よりよい選択を手助けする考え方です。LCTによって日常の消費行動が地球規模の環境問題に関連していることに気づき、行動変容につなげることが可能です。
ほとんどの児童生徒は、日々使っている日用品のライフサイクルを通した環境影響など気にしたことはないでしょう。LCTは目の前にあるものだけでなく、それが作られ、運ばれ、廃棄されるといった普段目にすることのない段階の環境影響も対象とします。自分たちの生活のあり方や消費行動が地球環境へ与える影響を網羅的に、定量的に把握することには大きな意味があります。
気づきを与え、理解を助ける教材が必要。
「実践」の事前学習を効率化する効果も。
冒頭でお話ししたように“気づき”を与えるためには、教師がどんな問いかけをするか、何を教材として準備するかが鍵となります。
ただ、学校の「多忙化」が問題となるなか、限られた授業時間を使って有意義なエネルギー・環境学習を行うためにも、子どもたちの興味・関心を引き出す教材および学習方法の開発は不可欠です。映像やパワーポイントをはじめICT、ゲーム形式など、魅力ある教材の開発、学習方法の工夫が今後さらに大切になっていくと考えています。
以前、実施した調査では、日本の高校生はイギリスの高校生と比べて実社会に関わる経験や主体的な調査、討論などの学習経験が少ないことがわかりました。家庭科は「実践」を大切にする教科です。将来の生活につながるグループワークや話し合い、実習などの学びを通して、社会や地球環境に対する見方や考え方を深め、行動の変革を目指したい。そのための事前学習にも、わかりやすく使いやすい教材が効果を発揮するものと思います。
次回<第2回エネルギー・環境教育の教材開発事例「地域学習から地球環境問題への気づきが生まれる『さぬきっ子 環境スタディ』」>
妹尾先生をはじめ専門家と教員、自治体、事業者などの協働により開発した香川県のエネルギー・環境学習教材を紹介します。