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    第3回 小森 栄治先生コラム

    数値の意味を考えて判断することの大切さ

    コラムの第3回は、理科の授業実践に定評のある日本理科教育支援センター代表の小森栄治先生に、放射線に関する数値や単位、原子力発電を授業で扱う際にどのような点に注意したらよいか、理科教育の観点からお聞きしました。

    小森 栄治(こもり えいじ)先生

    日本理科教育支援センター代表
    東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。埼玉県内の公立中学校教諭(理科)として28年勤務。文部科学省、県立教育センター、民間教育研究団体などの委員・講師を勤め、2008年から現職。1989年・2003年にソニー賞最優秀賞、2007年に第1回文部科学大臣表彰を受ける。著書に『子どもが理科に夢中になる授業』(学芸みらい社)など多数。

    原子力発電所における多重の安全対策を目の当たりにして

    柏崎刈羽原子力発電所の見学では、外部電源喪失に備えた電源車の高台設置など多重の電源確保対策、重要箇所に設置された分厚い水密扉、万一の非常事態に対応し電源がなくても冷却水を送れる装置など、福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえて新設された多重の安全対策、セキュリティ対策などを実際に見て体感することができました。

    発電所の13年間の運転停止による運転員の技能維持に関して副所長の大東さんに質問しました。運転員の3割が発電所停止後に入社した社員であること、実機を模したシミュレーターでの訓練を繰り返していること、それだけでは音や振動などの実際の感覚がつかめないため、火力発電所や再稼働した原子力発電所に運転員を派遣して経験を積んでいることを説明いただきました。また、技術や技能の伝承が途絶えないよう定年を迎えた元運転員の方を指導者として配置しているそうです。
    「福島第一原子力発電所のような事故を二度と起こさない」という決意のもと、このような物的、人的対策を実施していることに感銘しました。

    数値の意味や特徴を知ることはとても大切

    原子力発電所では運転に伴い様々な放射線が発生しますが、「放射線は悪いもの。ゼロにすべき。」という意見を聞くことがあります。放射線は「目に見えなくて怖い」と感じる方も少なくないと思いますが、メディアやインターネットの情報を鵜呑みにするのではなく、まずは自分で正確な情報源から調べてみることが大切です。調べてみれば、放射線をやみくもに怖がる必要はないこと、気をつけて使うことで医療や工業などの分野を中心に生活や健康に役立っている面があることも分かります。こうした事実を子どもたちに伝えてほしいと思います。

    また、放射線のことを教える際には、その種類や性質を伝えるだけではなく、単位の意味や特徴にも注意してください。放射線関連の話で出てくる「シーベルト」と「ベクレル」という単位ですが、その違いを知らないと全く違う意味に誤解してしまう恐れがあります。

    シーベルトは、放射線により身体が受けた影響を表す単位です。例えば、「日本人が自然界から受ける放射線の量は1人あたり年間約2.1ミリシーベルト」のように使われます。
    一方で、ベクレルは物質から出ている放射線の量を表す単位です。このベクレルは原子の数に関わる数値となるので、日常生活で使っている数値に比べると桁がとんでもなく大きくなり、兆や京を超えてしまうことが普通です。

    分かりやすい例を挙げると、皆さんは様々な物質を形作る「原子」や「分子」の数がどれほどあるかご存じでしょうか。例えば、ほんのわずかなおちょこ1杯の水(約18g)を想像してみてください。わずか約18gの水ですが、この中には、なんと「600,000,000,000,000,000,000,000(6×10の23乗)」(6,000垓)個の水分子(H2O)が存在しています。
    ちなみに、東京電力ホールディングスのホームページによれば、福島第一原子力発電所のALPS処理水は、年間22兆ベクレルを上限に、海水で薄めてから海洋放出されるそうです。「22兆ベクレル!」と聞くととんでもない量に思われますが、放射性物質の量を示す単位であるベクレルは1秒間に放射線を出して変化する原子の数を示した単位です。18gの水に含まれる水分子の数(6,000垓)と比較すると、原子の世界では、22兆が大変小さい数値であることが分かります。
    数値の大小だけで驚いたり、安心したりするのではなく、その数値が表す単位の意味や特徴に基づいて判断することの大切さを子どもたちに伝えてほしいと思います。

    中学校、高等学校における「放射線」や「原子力発電」の扱い方

    中学校理科では、2年生と3年生で放射線を扱います。さらに3年生ではエネルギーの単元で原子力発電のしくみなどを扱います。
    『中学校学習指導要領解説 理科編』には「東日本大震災以降、社会において、放射線に対する不安が生じたり、関心が高まったりする中、理科においては、放射線について科学的に理解することが重要であり、放射線に関する学習を通して、生徒たちが自ら思考し、判断する力を育成することにもつながると考えられる。」とあります。

    高等学校では、物理基礎の「エネルギーとその利用」で放射線を扱います。
    『高等学校学習指導要領 理科』の内容の取り扱いには、「原子力については、核分裂によってエネルギーが発生していることに触れること。関連して放射線の種類と性質、放射性物質の基本的な性質及び原子力の利用とその課題にも触れること。」とあります。
    学習指導要領に沿って授業を行うことはもちろんですが、特に原子力発電に関しては賛否両論があり、唯一の正解があるわけではありません。子どもたち自身が情報収集し、さまざまな意見も参考にしながら自分で意思決定することの大切さについても授業では伝えてほしいと思います。

    柏崎刈羽原子力発電所7号機原子炉格納容器内にて

    なお、『中学校学習指導要領解説 総合的な学習の時間編』には、中学校の総合的な学習の時間で扱う「現代的な諸問題に対応する横断的・総合的な課題」の中に「資源エネルギー:自分たちの消費生活と資源やエネルギーの問題」が例示されています。
    高等学校でも『高等学校学習指導要領解説 総合的な探究の時間編』に「資源エネルギー:社会生活の変化と資源やエネルギーの問題」があります。
    理科の授業では、エネルギー問題まで生徒に探究的に取り組ませる時間がとりにくいので、総合的な学習の時間を活用すると取り組みやすくなるのではないかと思います。太陽光発電や風力発電が天候に左右され供給が一定しないという欠点をどう解決するか、理科授業で行った実験や学んだ知識を生かして探究させることもできるでしょう。社会科で学ぶエネルギー資源の偏在や安定供給の課題などともあわせて、教科横断的な取り組みができるはずです。

    エネルギー教育はなぜ必要?

    理科授業で学ぶエネルギーの種類や変換の問題などは、正解があります。しかし、石油や天然ガスなどのエネルギー資源をどう確保するか、電気をどのようにつくって安定供給するかという問題は、非常に重大な問題ですが、唯一の正解がなくマルかバツかの思考では解決できません。
    空気や水と同じようにあるのが当たり前で、日常生活や経済発展に欠かせないエネルギーです。
    この問題は、学校を卒業して、社会に出てからも関心を持ち続ける必要がありますし、持たざるを得ないものだと思います。その基礎になる知識や考え方、判断の仕方などを学校教育で扱う意義はたいへん大きいと考えています。