第2回 谷 和樹先生コラム
エネルギーは国の支え。正しく教えることが必要
コラムの第2回は、エネルギー教育に詳しい玉川大学教職大学院教授の谷先生に、エネルギーをテーマにどのような授業を実践したらいいのか、社会科教育の観点を中心にお聞きしました。
谷 和樹(たに かずき) 先生
玉川大学教職大学院教授 日本教育技術学会会長
神戸大学教育学部初等教育学科卒業。兵庫県の小学校教諭として22年勤務。専攻分野は授業論、教育技術、学級経営、教材開発、ICT、社会科指導。教員を対象としたセミナーなどの講師としても活躍。著書に「みるみる子どもが変化する『プロ教師が使いこなす指導技術』」(学芸みらい社)など多数。
知識の習得だけではなく、「事実」と「データ」から自分ならどう考えるのか、きっかけを与える授業を
柏崎刈羽原子力発電所の見学では、副所長の大東さんから、福島第一原子力発電所事故の経緯やそれを踏まえた発電所の安全対策についてご説明いただきました。事実をもとに、難しい内容も一つずつ丁寧にお話くださったことをはじめ、その真摯な姿とお人柄が大変印象に残りました。
福島第一原子力発電所の事故以来、放射線や処理水などについて不正確な憶測や噂が広まった背景などもあり、エネルギー教育で原子力発電を取り扱うことが、難しくなっていると感じます。その一方で、最近の授業では難しいテーマを避けて、無難なことを子どもたちに伝えるだけになっていないか、という危惧があります。
学校では知識や考え方を、教師が教えることはもちろん重要ですが、子どもたちに「事実」と「データ」を提示し、そこから導かれるリスクとメリットを子どもたち自身が考える授業も必要ではないかと思います。
原子力発電をテーマに扱うのであれば、例えば、日本のエネルギー事情を知った上で、原子力発電所は全部止めた方がいいのか、代替エネルギーを見つけるまでは許容してもいいのか、それとも継続すべきなのかを、自分ならどう考えるか、周りはどう考えているのかを話し合う機会があってもよいのではないでしょうか。
そもそも、基本的な知識であるはずの「発電の原理」が子どもたちにきちんと教えられておらず、十分に理解されていないと感じることがあります。
水力発電、火力発電、原子力発電は、いずれも蒸気や流れる水の力でタービン(羽根車)を回し、そこにつながれている発電機で電気がつくられます。これらの原理はいずれも同じという事実を小学校のときからしっかりと教えるべきです。
また、これらの発電方法と、再生可能エネルギーである太陽光発電や風力発電を比較させてみて、発電量や発電コスト、安定供給などの視点から、どのような違いがあるのかを考えさせること。そのときに、日本には、なぜ安定したエネルギーが必要なのか、なぜエネルギーミックスが必要なのか、についても合わせて伝えるべきでしょう。
エネルギーに関するわかりやすい本などを活用して、教室に置くのもよいと思います。
また、小学校高学年から中学校・高等学校へと進むにつれて、実際の事象をもとにした数値データ等を読解させ、探究的に学習させる機会を段階的に増やしていくことも望ましいと考えています。
中学校、高等学校での社会科の授業への展開
原子力発電所の安全への取り組みは、日本のエネルギー事情や、各発電方法のメリット・デメリットと合わせて中学校社会科の地理、公民、歴史、高等学校の地理の単元で活用できると思います。
日本の資源やエネルギー事情について扱う単元の例
中学校
- 2年生地理 日本の地域的特色
(日本の資源・エネルギーと電力〜持続可能な地域の在り方) - 3年生公民 私達と国際社会
(限りある資源とエネルギー) - 3年生歴史 二度の世界大戦と日本
(戦争の原因とエネルギー) - 3年生歴史 持続可能な未来の社会へ
(経済、エネルギーを含めて探究的に)
高等学校
- 地理総合 地球的課題と国際協力
(エネルギー利用の現状と課題/地域で異なるエネルギー問題への取り組み) - 地理探究 エネルギー・鉱産資源
(エネルギー資源の種類と利用/化石燃料の分布と利用/電力の利用、等) - 地理探究 資源・エネルギー問題
(日本の資源・エネルギー問題)
エネルギーの大切さを認識できる教育を
エネルギー教育が必要な理由を一言で表すとしたら、「エネルギーは国を支えるものだから」です。世界的なエネルギー資源の偏在は、これまでに、石油危機のような社会的混乱や資源の奪い合いによる戦争などの引き金になってきました。日本のような資源を持たない国にとって、近い将来に大人になる子どもたちが、エネルギーの大切さをしっかりと自覚できる教育を受けることは非常に重要です。
電気代が上がれば、家庭の暮らしだけでなく、産業の生産力にも直結します。エネルギーが足りなかったり、不安定だったりすれば、国際的な競争力はどんどん落ちていきます。このような状況は当然、日本にとって望ましいものではありませんし、そうした認識が持てないことは、大きな問題だと考えています。まずは、エネルギーに対する基本的で正確な知識を、小中高いずれのステージにおいても教えていくことが必要であり、喫緊の課題ではないかと思います。
日本のエネルギーを支える人たちの思いにふれて
柏崎刈羽原子力発電所の見学で、柏崎では日本書紀の時代から原油が採れ、明治時代には多くの製油所が建設されたことを教えていただき、この地域が、日本のエネルギーを支えるために、昔から先人たちが努力されてきた土地であったことも初めて知りました。
発電事業に限りませんが、大きな事業を進める場所では、多くの人の存在を感じるとともに、互いのコミュニケーションが重要かつ不可欠なものだと想像します。柏崎刈羽原子力発電所でも、実際に約6,000人の方が働いているそうです。その方々が誇りをもって活き活きと働けるよう、所長さんをはじめ、多くの方々が毎朝のあいさつ運動や手書きのサンクスカードを手渡しする活動に取り組まれていること、発電所全体で人を大事にして、人の育成に力をかけていることを知りました。見学を通じて、こうした活動の積み重ねが、働く人たちの誇りにつながり、安全性の向上にも貢献していることもよく分かりました。
以前、静岡県の浜岡原子力発電所を見学したときにも感じましたが、今回の見学でも、原子力発電所を動かすことによる「国民の安全」と「経済的な利便性」について冷静にリスクを評価し、日本をより発展させていくための視点を持つことの大切さを感じました。それを子どもたちに伝えていくのは、私たち教師の仕事だと思います。