エネルギー教育における原子力発電
〜柏崎刈羽原子力発電所の見学から考えるエネルギー教育〜
2024年10月、エネルギー教育に詳しい玉川大学教職大学院教授 谷和樹先生、日本理科教育支援センター代表 小森栄治先生に、現在、再稼働に向けた取組みを進めている新潟県の東京電力ホールディングス柏崎刈羽原子力発電所を見学いただきました。
福島第一原子力発電所の事故を踏まえ、どのような取り組みが行われているのか、なぜ日本には原子力発電が必要なのか。また、柏崎刈羽原子力発電所の現状と、発電所が日々取り組んでいる安全対策の現場見学を通じて、エネルギー教育の授業で、原子力発電をどのように取り扱うのかについても考えていきます。
柏崎刈羽原子力発電所展示館5階、あおぞらテラスから発電所方面を望む。建屋は見えませんが、林の向こうには柏崎市と刈羽村にまたがった420万平方メートル(東京ドーム約90個分)の敷地が広がっています。煙突のように見える構造物は、建屋内の空気を外に出すための排気筒です。
谷 和樹(たに かずき) 先生
玉川大学教職大学院教授 日本教育技術学会会長
神戸大学教育学部初等教育学科卒業。兵庫県の小学校教諭として22年勤務。専攻分野は授業論、教育技術、学級経営、教材開発、ICT、社会科指導。教員を対象としたセミナーなどの講師としても活躍。著書に「みるみる子どもが変化する『プロ教師が使いこなす指導技術』」(学芸みらい社)など多数。
小森 栄治(こもり えいじ)先生
日本理科教育支援センター代表
東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。埼玉県内の公立中学校教諭(理科)として28年勤務。文部科学省、県立教育センター、民間教育研究団体などの委員・講師を勤め、2008年から現職。1989年・2003年にソニー賞最優秀賞、2007年に第1回文部科学大臣表彰を受ける。著書に『子どもが理科に夢中になる授業』(学芸みらい社)など多数。
第1回
柏崎刈羽原子力発電所の今 〜安全への日々の取り組み〜
当日、発電所を案内いただいたのは、柏崎刈羽原子力発電所副所長 大東正樹さんです。発電所の概要や安全対策についてのお話を伺い、7号機原子炉建屋を見学しました。
コラムの第1回は、発電所の現在と安全対策などについて紹介します。
大東副所長
発電所の概要
柏崎刈羽原子力発電所が立地する柏崎市と刈羽村は、新潟県のほぼ中央の日本海側に位置しています。
柏崎刈羽原子力発電所は、420万平方メートルの敷地に、1号機から7号機まで合計7つのプラントがあり、総出力は約820万kWと世界最大級の発電所です。
東京電力ホールディングス株式会社 パンフレットより引用
発電設備の概要
東京電力ホールディングス株式会社 パンフレットより引用
再稼働に向けての現在
柏崎刈羽原子力発電所は、現在、全てのプラントの運転を停止しており、福島第一原子力発電所の事故の教訓を踏まえて2013年に施行された国の新規制基準を満たすため、安全対策に取り組んでいます。
東京電力ホールディングス株式会社 パンフレットより引用
そのうち、6号機と7号機は新規制基準に合格しており、特に7号機については、2024年4月に原子炉への燃料装荷が完了し、6月には設備の健全性のチェックを終えて、再稼働に向けた技術的な準備が整っている状況です。
安全性を高める具体的な取り組み
原子力発電所は「止める、冷やす、閉じ込める」という考え方で安全を確保するように設計されています。福島第一原子力発電所の事故では、原子炉の運転を「止める」ことはできましたが、津波が襲来し、すべての電源を喪失したことで「冷やす」「閉じ込める」ができなくなりました。
東京電力ホールディングスは、福島第一原子力発電所事故を直接経験しているからこそ、柏崎刈羽原子力発電所を「災害に強い発電所」とするために、設備面・運用面で何重もの安全対策を講じてきました。大東副所長は、「絶対に妥協しない、という思いで安全対策に取り組んできた。」と言います。今回の見学でお聞きした、その安全対策の一例を紹介します。
設備面の安全対策
1 津波・地震から守る
柏崎刈羽原子力発電所で想定される津波の高さは7~8mですが、15mの津波を想定した防潮堤が設置されています。さらに原子炉建屋への浸水を防ぐための防潮壁、防潮板をはじめ、緊急時に原子炉を冷却する装置や非常用電源などがある重要エリアでは水密扉を設置するなど、津波による建屋内への海水の流入を防ぐための措置が講じられています。
地震対策としては、2007年の新潟県中越沖地震を踏まえた耐震強化を図った上で、新規制基準に適合するように、発電所内の耐震評価や工事が行われています。
防潮堤
写真提供:東京電力ホールディングス株式会社
防地震対策として建屋内の配管などのサポートを追加(1,400~3,000箇所)
写真提供:東京電力ホールディングス株式会社
2 電源を絶やさない
外部電源が失われた場合でも安全対策に必要な電源が確保できるように、多重・多様な代替電源設備が用意されています。外部電源が喪失した時に起動する非常用ディーゼル発電機をはじめ、軽油のガスで電気をつくるガスタービン発電機車や発電機を搭載した電源車を複数用意し、津波の影響を受けない場所に分散して配備しています。
ガスタービン発電機車
写真提供:東京電力ホールディングス株式会社
電源車
写真提供:東京電力ホールディングス株式会社
3 原子炉を冷やし続ける
原子力発電所には、事故などの緊急時に原子炉へ水を送り込み、炉心を冷却できる非常用炉心冷却装置(ECCS)という設備がありますが、その他にも、ECCSが起動・運転できない場合や電源が全て失われ電動の注水設備が使えなくなった場合でも、原子炉への注水が可能な様々なポンプや設備が用意されています。
また、屋外からでも原子炉や使用済燃料プールへの直接注水が可能な消防車が配備されているほか、注水用の水源として約2万トンの淡水貯水池も構内に設置されています。
非常用炉心冷却装置(ECCS)
写真提供:東京電力ホールディングス株式会社
全ての電源が失われた場合でも原子炉の蒸気を駆動源にしてポンプを回す設備 高圧代替注水系(HPAC)を見学
4 放射性物質の拡散を抑制
福島第一原子力発電所の事故では、炉心損傷によって炉心から発生した水素が原子炉建屋内に漏えいし、水素爆発が起こり、大量の放射性物質を飛散させてしまう事態になりました。
柏崎刈羽原子力発電所には、万が一の事故が起きた場合でも、放射性物質の拡散を抑制する設備があります。電気を使わない触媒の働きで水素濃度の上昇を抑える設備を原子炉建屋最上階に設置しているほか、事故が発生した場合でも、大気中へ放出される放射性物質を低減し、敷地外への拡散を抑制するためのフィルタベント設備や大容量放水設備などが設置されました。
フィルタベント設備の設置工事
写真提供:東京電力ホールディングス株式会社
7号機原子炉建屋の最上階を見学
大容量放水設備を用いた放水の様子
写真提供:東京電力ホールディングス株式会社
運用面の安全対策
訓練
このような何重もの安全対策は重要ですが、それを確実に使いこなせる発電所員の技量も重要です。技量の維持・向上のため、発電所ではさまざまな事象を想定した訓練が定期的に実施されています。津波や地震などの自然災害や過酷事故を想定した訓練が月に1回以上行われ、参加者にシナリオを知らせないブラインド訓練になることもあるといいます。訓練を通じて、一人ひとりの緊急時における対応力、判断力の強化が図られています。
コミュニケーション
また、発電所が大切にしているのが、社内外のコミュニケーションの活性化。発電所の安全性をさらに高め、「いい発電所」を実現するためには、組織を構成する人たちがコミュニケーションを密にして互いに信頼しあうことが不可欠です。柏崎刈羽原子力発電所では、発電所正門前で毎朝行うあいさつ運動や「サンクスカード」などの取り組みを通してコミュニケーションの活性化を図っています。
サンクスカードとは、褒める仕組みの構築と感謝の輪を広げたいという思いから、所長から所員や協力企業の社員に宛てた手書きのカード。現場の努力に対し、所長が感謝の気持ちを書いて一人ひとりに手渡しているそうです。柏崎刈羽原子力発電所では約6,000人が働いていますが、カードを始めて1年半の間に5,000枚以上を発行したとのこと。所長の気持ちを伝える言葉が、働く人たちのモチベーションアップにつながっているといいます。また、所員が地域のイベントなどに参加することも多く、共に活動することを通じて感じる地域の方々の想いが、日々の業務にも繋がってくるそうです。
なぜ、原子力発電は必要?
まず、「エネルギーのベストミックス」の観点からの必要性です。東日本大震災以降、日本の電力は海外から輸入する化石燃料を用いた火力発電が7割を占めており、日本は世界第5位のエネルギー消費国でありながら、エネルギーの自給率は約15%しかありません。資源に乏しい日本では、特定のエネルギーに依存することなく、「安全(Safety)」を大前提として、「エネルギーの安定供給(Energy Security)」・「経済効率性(Economic Efficiency)」・「環境適合(Environment)」のS+3Eの観点から、火力発電や再生可能エネルギー、原子力発電等の様々な電源を、それぞれの強みを活かして適切なバランスで組み合わせることが必要です。中でも原子力発電はエネルギー安全保障だけではなく、CO2排出の抑制と安定供給の両立に向けた重要な電源として位置づけられています。
出典:電気事業連合会資料より抜粋
また、発電容量の大きい柏崎刈羽原子力発電所は、自然災害が起きたときや、猛暑などで電力がひっ迫したときなどの備えにも繋がる安定した電源としての役割も期待されています。過去2011年7月の新潟・福島豪雨災害で水力発電所が複数停止した際には、柏崎刈羽原子力発電所の稼働による電力融通が行われ、東北エリアの電気の安定供給に貢献しました。
電気料金を抑えるという目的もあります。化石燃料を使う火力発電は、国際情勢や円安などによって価格が高騰するリスクがありますが、原子力発電は発電コストに占める燃料費の割合が他の発電方法に比べて非常に低いことから、燃料費高騰の影響を受けにくく、一定の経済性のもとで安定して発電できる特徴があります。東日本にも再稼働した原子力発電所がありますが、実際に再稼働している基数が多い西日本では電気料金が安くなっている傾向にあります。再稼働による電気料金の抑制は、国内産業や国民生活にとって大きなメリットに繋がります。
原子力発電所の再稼働にあたっては、今回ご紹介した安全対策はもちろん、発電所の取り組みを地域の方々をはじめ、広く社会にご理解いただくことが必要とお聞きしました。更なる安全性の向上、その先の再稼働に向けて、発電所の日々の取り組みはこれからも続きます。
原子炉模型の展示を見学する先生方
参考資料
柏崎刈羽原子力発電所の設備や安全対策
(東京電力ホールディングスホームページ)
柏崎刈羽原子力発電所トップ
https://www.tepco.co.jp/niigata_hq/kk-np/index-j.html
柏崎刈羽原子力発電所をVRでのぞいてみよう!
https://www.tepco.co.jp/niigata_hq/learningmore/movie/kkvr/index-j.html
柏崎刈羽原子力発電所の安全対策
https://www.tepco.co.jp/niigata_hq/kk-np/safety/index-j.html
原子力発電のしくみ、放射線についての基本的な情報
(電気事業連合会ホームページ)
原子力発電のしくみ
https://www.fepc.or.jp/enterprise/hatsuden/nuclear/
放射線について
https://www.fepc.or.jp/theme/hoshasen/index.html
エネルギーのベストミックスについて
(経済産業省資源エネルギー庁のホームページ)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/001/pamph/manga_denki/html/007/
柏崎刈羽原子力発電所の日々の取り組みや働く人の気持ちを伝える動画ライブラリー
(KKチャンネル)
https://www.tepco.co.jp/niigata_hq/learningmore/movie/kkchannel/index-j.html