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    対談 北俊夫×澁澤文隆

    エネルギー教育とSDGs

    〜目標達成につながる教育とは〜


    学校教育におけるSDGsの取り組みがスタートしています。子どもたちが目標達成の担い手となるために重要な視点や、学校で実践可能な教育活動などについて、主にエネルギー教育の観点から北先生・澁澤先生にお話ししていただきます。

    第3回
    エネルギー教育から広がる教科横断的な教育活動

    最終回となる今回は、SDGsへの取り組みから広がる教育活動の可能性について、エネルギー教育の観点を中心に語っていただきました。

    17の目標と、教科横断的な指導の関係性

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    今、学校では教科横断的な指導が求められているとのことですが、SDGsとの関わりではどのようなことが考えられますか。

    環境教育、エネルギー教育、国際理解、消費者教育、防災教育などのように、1教科では指導しきれない教科横断的な教育課題を取り扱うことが学校には要請されており、それら1つ1つはSDGsの複数の目標に関連しています。また、SDGsを社会科で位置づける場合も、総合的な学習の時間で重点的に行う場合にも、教科横断的な指導が必要になります。入口は「エネルギー」であっても、関連するさまざまな課題が他教科へとつながっていくからです。

    澁澤

    SDGsの17の目標も、それぞれが相互につながっています。目標7だけをみても、エネルギーのみならず、関連する問題や援助・協力なども含め多面的な課題が設定されています。それぞれの目標の中に多面性があり、その目標を実現しようとすると他の目標と関わらざるを得ないという構造になっているということです。

    一方、中学校は教科担当制ですし、1週間の持ち時間数は20時間を超えています。そのため、各教師の時間割は空き時間があまりなく、定まった時間割を一時的とはいえ変更するのが困難なのが実情です。裏を返すと、時間割変更を要請する教科横断的な学習は、中学校段階ではけっこう導入困難といえます。こうした点を踏まえると2030年前後までは、SDGsに関わる学習・活動は総合的な学習の時間の半分ぐらいを割いて、また各学年にわたりカリキュラムチームなどを組んで、“地域で考え、活動する”“日本で……”“国際社会で……”などといったかたちで体系立てて計画的に行うようにしたらどうかと考えます。

    いろいろな教科の内容を結びつけながら横断的に指導していくためには、教師に指導のネットワーキングが求められます。指導のネットワーキングとは、1つのテーマに付随する他のテーマを関連付けて指導することであり、そのようなカリキュラムを編成すること。学習指導要領の総則にも「教科等横断的な視点に立った資質・能力の育成」と示されており、指導者が複数の教科等関連付けて指導することを意識することで実践は可能だと思います。

    学校教育に“未来を考える営み”を

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    これまでのお話をふまえて、「こんな授業があったら面白い」というアイデアがありましたら教えてください。

    将来、例えば10年後の電源構成を考え、それについて議論するのはどうでしょうか。安定性、経済性、環境への配慮そして安全性といった観点を考慮し、将来の電源構成を考える。そのためには多面的・多角的な思考が必要であり、事実に基づいて科学的に物事を処理する能力も試されます。現状の構成を見ながら将来の構成を考える、これは小学生にも可能です。おそらく再生可能エネルギーの割合が大きくなる子が多いかと思いますが、中にはバランス良く考える子もいるかもしれません。各自が考えた電源構成の違いを、なぜそうなるのか、違いの意味を議論しながら考えていくと面白い授業になりそうです。

    もう1つ考えたのは、脱炭素社会をテーマにした授業です。国は2050年に脱炭素社会を実現するという目標を示しましたが、それに向けて今から取り組むべき課題は何か、どんな研究開発が必要かを考えるというものです。これは新しいビジネスチャンスを考えることにつながり、中学校のキャリア教育の一環にもなると思います。

    これらのテーマは、現行の社会科の学習内容を超えていますので、総合的な学習の時間などに取り上げるとよいですね。

    澁澤

    そうですね。将来のこと、例えば脱炭素社会の実現を考えるとき、「炭素社会を脱するとはどういうことなのか、産業革命以来の大変革になるが…」「陸、空、海の交通の脱炭素化が本当に実現できるのか」「安価で安定供給がエネルギーの生命線なのに脱炭素化を実現してよいのか」「実現するために解決しなくてはいけない課題は何か」といった問題意識を子どもたちにしっかり持たせ、協働で方向性や答えを模索したり導き出したりするような営みができるとよいですね。こうした学習の実現を踏まえると、総合的な学習の時間の充実・運営が教育課程の鍵を握ることになりそうですね。

    そういうことを考えると、“省エネ”はSDGsでも脱炭素社会の構築でもキーとなる営みです。そこで、例えば中東のUAE(アラブ首長国連邦)では発電所と水道局が一体化していますが、それは発電時に出る大量の熱を海水の真水化のためのエネルギーとして活用しているからです。だから、乾燥し水不足に悩んできた国でも今は安い水道料金で豊かに水を利用できるようになっているのです。日本の発電所は、その熱をほとんど海洋に投棄するかたちになっていますが、UAEのようにその熱を上手に有効利用する施設・方法などを思い描いてみよう!といった課題を提示し、協働で取り組ませるような活動もあってよいのではないでしょうか。さらに、温暖化の張本人で厄介者になっているCO2を資源化できれば火力発電所が生き延びられるかもしれない。みんなでCO2の資源化を考えてみよう!さらに、電気という製品は、他の工業製品などと違って、さまざまな資源、方法で発電することができます。そこで現時点で実用化されている発電方法、構想されている発電方法を調べたうえで、構想されている発電方法を実用化するための手立てやプロセスを想い描いたり、今は構想されていない夢の発電方法を想い描いたりして実用化の道を探ってみよう!などといったテーマで取り組ませる活動も、総合的な学習の時間では構想したいですね。

    いずれにしても子どもたちに「こんなふうにできないか」という夢・構想を思いっきり想い描かせてそれを絵などで表現し、その実現をこれからの自分の宿題にしていくような、そんな活動も大切にしていきたいと思いますね。

    教育とは基本的に文化の伝達であり、過去からの積み重ねと現状を踏まえて教育活動をしていくことになるので、未来のことを想像するといった学習が教育課程に入ることはあまりありませんでした。だからこそ総合的な学習の時間などでは、もっと未来志向の学習があってよいと思います。

    SDGsはみんなが「こうありたい」と願う社会を目標にしていますが、それは、今はそういう社会が実現できていないことがベースになっています。だからその目標を実現するには、まず今ある問題を現実的に解決することが大事なのですが、一方で、SDGsとは違う、いわば次世代が願い抱くであろう社会改革、そして夢や理想を含めた未来を考える、次世代型SDGsに関わるワークがあってもよいのではないかと思っています。

    北 俊夫 先生

    東京都公立小学校教員、東京都教育委員会指導主事、文部省(現文部科学省)初等中等教育局教科調査官、岐阜大学教授、国士舘大学教授を経て、現在一般財団法人総合初等教育研究所参与。

    澁澤 文隆 先生

    フェリス女学院中学・高等学校教諭、東京教育大学(筑波大学)附属中学校・高等学校教諭、文部省初等中等教育局中学校課、高等学校課教科調査官、信州大学教育学部教授、同附属中学校校長(併任)を経て、帝京大学教職大学院教授、日本エネルギー環境教育学会前会長。著書に「今、始めないと!エネルギー・環境教育」(東京書籍)など多数。