対談 北俊夫×澁澤文隆
エネルギー教育とSDGs
〜目標達成につながる教育とは〜

学校教育におけるSDGsの取り組みがスタートしています。子どもたちが目標達成の担い手となるために重要な視点や、学校で実践可能な教育活動などについて、主にエネルギー教育の観点から北先生・澁澤先生にお話ししていただきます。


目標7を構成するターゲット
- 7.1
- 2030年までに、安価かつ信頼できる現代的エネルギーサービスへの普遍的アクセスを確保する。
- 7.2
- 2030年までに、世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大させる。
- 7.3
- 2030年までに、世界全体のエネルギー効率の改善率を倍増させる。
- 7.a
- 2030年までに、再生可能エネルギー、エネルギー効率及び先進的かつ環境負荷の低い化石燃料技術などのクリーンエネルギーの研究および技術へのアクセスを促進するための国際協力を強化し、エネルギー関連インフラとクリーンエネルギー技術への投資を促進する。
- 7.b
- 2030年までに、各々の支援プログラムに沿って途上国、特に後発途上国及び小島嶼途上国、内陸途上国のすべての人々に現代的で持続可能なエネルギーサービスを供給できるよう、インフラ拡大と技術向上を行う。
「誰もが利用できる安価な電気」という大きな課題
SDGsの目標7「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」は、何をどのようにすることと捉え、理解すればよいのでしょうか。

SDGsの目標7.1には、すべての人が安価・安全で信頼できる現代的なエネルギーを継続して利用できるようにすることと示されていますが、それはズバリ「電気の普及、電化を図ること」と読み取ることもできるでしょう。そして電化を図る際の発電は、7.2に示されているように、できる限り再生可能エネルギーを使うようにしようということですね。ただし、この点については日本をはじめ先進国の多くが2050(中国は2080)年までにカーボンニュートラル実現を目指す方針を打ち出していることを考慮し、それと関連付けて考えることが必要でしょう。SDGsでは、目標7.2で2030年までに再生可能なエネルギーの大幅な拡大を提示していますが、それと共に目標7.aでは「先進的かつ環境負荷の低い化石燃料技術の研究」する旨を打ち出しています。この点に着目すると、2030年は2050年カーボンニュートラル実現をめざす過渡期にあり、環境負荷の低い化石燃料技術の研究も促進する必要があるということだと思います。安価で安定的な信頼できるエネルギー供給の普及拡大を考慮すると、再生可能なエネルギー一辺倒に走らず、現実的にはまだまだ化石燃料に頼らざるを得ない点を踏まえて、2050年カーボンニュートラル実現を目指して円滑に移行できるよう努力していこうということだと思います。そのため現時点では再生可能、化石エネルギーを問わず、エネルギー効率をできるだけ高めてエネルギーの有効活用を促進しよう、こんな点が目標7には含まれています。
小学校の段階では、目標7を理解するために次のようなポイントをまずは教師自身がおさえ、子どもの発達を踏まえて折りにふれて子どもたちに伝える必要があると考えています。
- 電気やガスなどのエネルギーは熱、光、動力を生み出し、私たちの生活や産業活動にとって不可欠なものであることを理解すること。さらに水道や通信を加え、これらが私たちの生活に欠かせないライフラインであることを理解すること。
- わが国では石炭、石油や天然ガスなどの化石燃料をもとにエネルギーが作られているが、化石燃料は外国からの輸入に頼っていること。化石燃料からエネルギーを作り出す際にはCO2が発生し、それが地球温暖化の一因になっているといわれていること。
- わが国の電源は、石炭、石油、天然ガス、原子力のほか、水力を含めた再生可能エネルギーであるが、その割合は石炭、石油、天然ガスといった化石燃料が現在80%以上を占めていること。
- 今、水力、風力、太陽光、地熱といった自然の力を利用した再生可能エネルギーの開発が求められているが、再生可能エネルギーには経済性や安定性、環境への負荷の面で課題もあること。
- 世界には電気やガスを利用できない人たちが約8億4千万人もいること。その人たちの中には薪や動物の排泄物をエネルギーにしている人たちもいること。
今の日本の子どもたちは、SDGsの目標7のターゲット7.1については「もうすでに達成できているのでは?」と感じているように思います。何しろ日本の子どもたちは、停電を体験するのは災害のときくらいという環境下で生活している一方、欧米はともかく貧しい国々の様子は、ほぼ知らないことから、電気を利用していない生活を想像することは容易なことではないと思われるからです。
この点を考慮すると、中学生には視野を世界に広げ、「誰一人取り残さない」というSDGsの理念を踏まえ、ターゲット7.bに着目して先進国としての支援プログラムの達成という点についても関心をもってほしいですね。現時点で電気が使えていない人々が世界に8億4千万人もいること、それらの人々の中には、たとえ公共のインフラとして電気が届いたとしても貧困などで実際には利用できない人たちがたくさんいます。そのことを考えると「電気を届ける」だけでは不十分であり、電気を実際に利用できるようにするためには①電気料金が安価であること、②電気を光、熱、動力のエネルギーとして利用できる電化製品・機器の普及が可能な社会であること、といった条件を充たすことが必須になります。
そして、①の電気料金については、再生可能エネルギーに頼った場合でどこまで安くできるのか。ある程度は化石燃料を使わないと安くはならないのではないか。なお、電気については停電や電力不足の防止、電圧や周波数の安定化といった電気の質を考慮したうえでの電気の安定供給といった点をクリアーすることも必要です。この点からも再生可能、化石エネルギーのベストミックスの課題の検討が必要といえるでしょう。
②の条件については、日本でも電気が生活や産業にとって必需品になったのは第二次世界大戦後の高度成長期を通してであり、技術革新や生活水準の向上の賜物であったことを踏まえると、単に電気を届ける技術援助だけでは電気は普及しないことが容易に理解できるでしょう。産業の発展を促す経済的な基盤整備に関わる支援も視野に入れる必要があるということです。
「安価な電気を安定供給する電気のベストミックスとは?」「届いた電気をみんなが実際に利用し使えるようにするには何が必要か?」「開発途上の国・地域の産業経済の発展や生活水準の向上を図るための支援はどうすればよいのか?」等々について、中学校段階では日本国内だけでなく世界的視野を踏まえ、目標7の達成を多面的、多角的な思考を促しながら考えさせることが重要です。
小学生の場合、化石燃料を使うとCO2を発生させるからクリーンではないと考え、この目標が目指しているのは再生可能エネルギーに転換することだと捉えている子どもが多いようです。でも、この目標は2030年を目途にしているものですから、それほど先の話ではありません。そこで「クリーンに」という目標から考えなければいけないのは、再生可能エネルギーがベストなエネルギー資源になり得るのかという問題です。そこに課題があることにまず気づかせることが大切で、さらに、2030年という近い将来に定められた目標に対して、どのような考え方で、どういったステップを踏んでいけばそれが実現できるかを、現実的な視点に立って子どもたちに考えさせることが必要になると思います。
近い将来、安価でクリーンなエネルギーを世界のみんなで活用できるようにするにはどうすればよいか、クリーンであることはたいへん重要なことですが、安価であることや安定供給をいかに確保するかといった点も、エネルギーが生活や産業にとって必要不可欠なものであるだけに、たいへん重要です。これらを考えていくと、目標7の実現がそう簡単ではないことがわかってきます。
発達段階に応じて、目標を現実的に考える学習活動を
目標7を指導するにあたって、留意することについてお聞かせください。

エネルギー教育では、地球規模でエネルギーの問題に取り組もうとするときの考え方として、「Think globally, act locally」(地球規模で考え、足元から行動せよ)という言葉を大切にしてきました。これを具現化するような実践力、行動力を身に付けることがSDGsを推進するにあたっても大切な力になると思っています。
小学生は、まず自分たちの生活や身近な地域社会の中で電気がどのように活用されているかを知り、光、熱、動力などのエネルギーとして煙も臭いも灰も出さない電気の利用がいかにクリーンであるかに気づくことがスタートになるのではないでしょうか。そして、その電気の課題は発電にあり、今の私たちの生活を支えている電気の多くは、特に日本では化石燃料を使用した発電によって実現しているという状況をしっかり把握させるようにしたいですね。その際、可能ならば次のような点にも触れるようにしてはどうでしょうか。
- 化石燃料を使わずに安くて質の良い電気を安定的に供給するといった現在のような電力事情が実現できるかどうか。
- 「クリーンに」=「CO2を出さない」といった考え方でSDGsの目標7をとらえ理解してしまってよいのかどうか。
- 合成燃料といったCO2の資源化を視野に入れて考えると、化石燃料の利用継続と森林育成に替わるカーボンリサイクルの構図も描けるのではないか。
いずれにしても発達段階に応じてどのように指導できるかが留意点になるでしょう。今日の私たちの豊かな生活や産業の発展はエネルギーの大量消費によって成り立っていること、その化石エネルギー資源は将来枯渇する恐れがあること、また、その大量消費に伴ってCO2を大量放出しているため現代社会は温暖化問題に直面していること、だから私たちはエネルギーを大事に使わなければいけないのだということをしっかり認識させながら、自分たちの生活を見つめ直すことから始める必要があるのでしょうね。
これまでのお話を総合すると、電気がみんなに行き渡るためには安いこと、いつも得られること、つまり経済性と安定性が非常に大事であり、併せて環境に対して負荷を与えないこと、安全であることという視点が必要になります。エネルギーのあり方を考えるときは、このようないろいろな視点から考えて判断する力を育てることが大切で、小学校で取り上げるならば小学生としての到達点を定めておくことが必要ではないかと思いました。
中学校段階のSDGsの学習では「誰一人取り残さない」の理念を尊重し、繰り返しになりますがさらに視野を広げて、電気の届いていない地域の人たちが実際に電気を利用できるようになるには安く安定的な供給という課題があることを理解したうえで、電気の利用以前に産業がある程度は発展している必要があること、しかし産業の発展のためには現代社会ではそもそも電気が必要であることなども考えさせたい。そして、これから2030年にかけて開発途上の国・地域の産業活動が活発化し、今よりはるかにエネルギーを大量消費する時代がくることが考えられるなかで、再生可能エネルギーのみでその需要を満たすことができるのか。この目標7ではこの近未来の世界や日本のエネルギー需給をめぐる問題を現実的に考える、具体的に考える学習活動がいっそう重要になってくるのではないでしょうか。
次回「第2回 SDGsを学校で扱うことの意義、課題」

北 俊夫 先生
東京都公立小学校教員、東京都教育委員会指導主事、文部省(現文部科学省)初等中等教育局教科調査官、岐阜大学教授、国士舘大学教授を経て、現在一般財団法人総合初等教育研究所参与。

澁澤 文隆 先生
フェリス女学院中学・高等学校教諭、東京教育大学(筑波大学)附属中学校・高等学校教諭、文部省初等中等教育局中学校課、高等学校課教科調査官、信州大学教育学部教授、同附属中学校校長(併任)を経て、帝京大学教職大学院教授、日本エネルギー環境教育学会前会長。著書に「今、始めないと!エネルギー・環境教育」(東京書籍)など多数。