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    対談 北俊夫×澁澤文隆

    エネルギー教育とSDGs

    〜目標達成につながる教育とは〜


    学校教育におけるSDGsの取り組みがスタートしています。子どもたちが目標達成の担い手となるために重要な視点や、学校で実践可能な教育活動などについて、主にエネルギー教育の観点から北先生・澁澤先生にお話ししていただきます。

    第2回
    SDGsを学校で扱うことの意義、課題

    今回は、SDGsの内容と学校教育の関係を掘り下げます。学校でSDGsに取り組むにあたり大切になる考え方を中心に、従前から学校で取り組まれてきたESDとの関連についても語っていただきました。

    教科学習とSDGs

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    教科学習とSDGsの関係や、教科学習では足りないことを補うために必要なことについてお聞かせください。

    澁澤

    SDGsの17の目標を眺め渡すと、現代社会が抱えている基本的な課題をすべて解決しようという姿勢が伺えます。

    1972年の国連人間環境会議以降、開発が環境汚染や自然破壊をもたらしているとして開発の抑止を主張する先進国と、最大の環境問題は未開発や貧困であるとして開発の促進を主張する開発途上国とが激しく対立し、国際会議を開催しても妥協点、打開策が見いだせない状態が続いていました。この対立をひも解くキーワードとして登場したのが1987年の国連総会で提示されたSD「持続可能な開発」(将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、現代の世代のニーズを満たす開発を進める)であり、このキーワードの下にリオデジャネイロ・サミットが開催されました。しかし、次のヨハネスバーグ・サミット以降は再び南北対立が先鋭化し、これにくさびを打ったのが国連主導で貧困撲滅など途上国の社会問題にタ―ゲットを置いて取り組んだMDGs(ミレニアム開発目標)でした。その後継として登場したのがSDGsであり、先進国、途上国の壁を超えて国連加盟国の総意として2年間の歳月をかけて練り上げたものです。

    SDGsは、2030年までに17の目標を先進国、途上国問わず各国が官民挙げて取り組み、「誰一人取り残さない」かたちで各目標を実現することを目指しています。「持続可能な開発」とは、現代の世代が抱える基本的な社会問題をみんなで協力して解決して次世代にバトンタッチしよう、次世代が引き受けていいよと思えるような社会にすることが現世代の役割だ!と言っているわけですよね。

    したがって、17の目標は多かれ少なかれすべて教育活動につながりますし、協働的に取り組むことが期待・要請されているといえるでしょう。換言すれば教科学習に加え、道徳、特活、総合的な学習の時間も視野に入れて検討すると、SDGsが提起する課題にかなり広く触れることができるのではないかと思えます。ただし、一方で各教科等の目標や内容等を踏まえると、学習指導するべきものは豊富にあり、時間的余裕などないのが実情です。したがって、SDGsの各目標の内容を授業だけで取り扱い深めていこうとすると、どうでしょうか?

    現代社会に生きる一員としていかにSDGsに関わっていくか、そのスタンスの基本を教科等の授業で取り扱い、17の目標に関わる具体的な課題を追求し解決を目指す活動については社会や家庭を視野に入れて調整する必要があると思います。学校だけで背負い込むのは避けたほうがよく、いかに家庭や地域と連携・協力するかによってできることは変わってくると思いますし、変わるべきものと思います。

    学校におけるSDGsの取り組みとは、目標を教えることではなく、具体的な視点で目標実現のための方策を子どもに考えさせることです。さらに、目標を理解したうえで何をするのか。自分たちにできることを考え、行動に移すことによって目標に近づくのだと思います。そのためには日々の教科指導や学校の取り組みをSDGsの視点から進めたいところですが、限られた時間の中ではテーマを選択し重点化を図ることが必要になってきます。現状では、各教科等で取り上げられる学習内容とSDGsの目標との関連付けを指導者が意識して行わなければ、なかなか難しいのではないでしょうか。

    澁澤

    そうですね。教科学習はそれぞれ目標、内容があり、学校段階を踏まえて系統的に編成されていますから、その中で関わりのあるところをSDGsに関連付けて取り扱っていくというのが基本的なスタンスになると思います。昨今はテレビなどでも頻繁にSDGsが取り上げられていますが、先ほど北先生からご指摘があった「目標を教える」といったキャンペーンになっているように思われます。SDGsではどういう考え方の下にどんな活動が期待・要請されているのか?それぞれの目標の意味内容やそれに伴う活動は?というよりも、SDGsという用語をやたらとオウム返しする言葉だけのキャンペーンになっているような気がしています。子どもたちも言葉だけなら知っているでしょう。しかし学校でもう少しSDGsの考え方や枠組みなどへの理解を深められるようにするには、独自の系統性をもつ教科学習とは異なる位置づけ、枠組みのもとで創意工夫が期待される「総合的な学習の時間」を活用していく必要があると思います。どのような経緯があって17の目標が国連で採択されるに至ったのか、“持続可能な開発”や“誰一人取り残さない”などの意味や考え方、そして現世代、次世代として生きる児童生徒が社会を構成する一員として他人事ではなくどうこの活動に参加、協力していったらよいのか、教科学習では取り上げきれない部分を「総合的な学習の時間」が受け持ち、SDGsの考え方等の理解を深めながら、教科学習では適宜関連深い目標を取り上げ進めるのがよいのではないかと思います。

    「学校でできること」を考える

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    学校におけるSDGsの取り組みを考えるうえで大切なことについて、さらにうかがいます。

    子どもにどのような教育活動を展開するかはもちろん大事ですが、学校運営の視点と、地域・家庭との連携の視点も忘れてはならないと考えています。 学校運営の視点とは、例えばエネルギー効率の観点から学校建築のあり方を考えたり、施設・設備を改善したりするなど、ハード面も含め学校の運営について考えることです。 子どもは家庭、学校、地域社会で生きています。地域・家庭との連携という視点では、例えば地域にある施設や企業の協力を得て、地域の教育資源(出前授業など)を活用した教育活動を行うことや、直接あるいは子どもを介して保護者への啓発を行うことなどが考えられます。

    澁澤

    そうですよね、目標7.3には「エネルギー効率の改善」とありますが、エネルギー効率をいかに高めるかは例えば建築物によっても左右されます。今は多くの学校でエアコンが導入されていますが、教育委員会やPTAなどの間では、そもそも校舎という長い廊下、広い窓などに象徴される建築物でエアコンが効くのか、従前通りの校舎にエアコン設置というのはエネルギーの浪費であり、温暖化対策が要請されている今日、教育的にも問題なのではないかという指摘、議論も起こったようですが、当然のことですよね。

    学校教育というのは基本的に学習指導要領に沿ってカリキュラムが組まれているため、SDGsのような人類的課題といえども即座に全面的に取り組んでいくことにはそもそも無理があります。学習指導要領の目標、内容を踏まえつつ、先生方の創意工夫の範囲でSDGsという今日的で協働的な課題をいかに意欲的に取り入れていくか、生涯学習の一環として家庭、地域と連携し社会生活の中で取り組んでいく内容として取り扱うようにしたいですね。

    エネルギー教育では家庭、地域、学校の教育力を生かしそれらを連携させていくという枠組みがありますが、SDGsも学校単独ではなく地域や家庭にもそれぞれ役割分担してもらう必要があります。そもそもSDGsは地域や家庭が主役になって行う活動というのが本来の姿であり、そうした場に子どもたちが協働的に参加して学ぶ、そんな活動にすることが望まれているんだと思います。

    学校ではSDGsより前から「ESD(Education for Sustainable Development):持続可能な開発のための教育」の取り組みが行われてきました。ESDは、2002年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議」でわが国が提唱した考え方で、ユネスコを主導機関として国際的に取り組まれてきたものです。先生方の間でESDとSDGsの違いが話題になっていますが、文部科学省は、ESDを進めることによってSDGsの目標実現につながるという説明をしています。そして、学習指導要領が示す内容をきちんと指導すれば、ESDの実現につながるとも言っています。ESDは学校で長く馴染んできた活動であり、これまでに多くの成果、実績も残っています。これまでの学校での取り組みの状況を踏まえると、基本は学習指導要領に書かれている内容の指導を充実させることなのだと思います。

    澁澤

    ESDを学校教育に取り入れることを発案したのは日本ですから、教育活動の中にしっかりと位置づけ、軌道に乗せる努力をしてきましたよね。このESDとSDGsの違いを端的に指摘するとすれば、ESDは教育的課題で学校を舞台とする取り組みですが、SDGsはいわば人類的課題であり、学校・家庭・地域というよりも現代社会を舞台にして現世代が協働的に取り組んでいく課題ということができるのではないでしょうか。したがって、SDGsの取り組み・活動においては、学校はそうした社会の取り組み・活動に参加・協力していくというスタンスになるのではないでしょうか。学校は、“現世代の一員でもあり次世代の一員とも見なすこともできる児童生徒”が学ぶ場となっているという点を踏まえ、学校を活かした学校教育だからできる参加・協力のあり方・仕方を前向きに具現化していくすることが大切ではないでしょうか。

    ESDとSDGsの方向は同じです。2019年の国連決議では、ESDはSDGsのすべてのゴールを達成させるための鍵だとも言っています。ESDのテーマの1つとしてエネルギーを取り上げる、このような取り組みであればどの学校でもやりやすいのではないかと思います。

    次回「第3回 エネルギー教育から広がる教科横断的な教育活動」

    北 俊夫 先生

    東京都公立小学校教員、東京都教育委員会指導主事、文部省(現文部科学省)初等中等教育局教科調査官、岐阜大学教授、国士舘大学教授を経て、現在一般財団法人総合初等教育研究所参与。

    澁澤 文隆 先生

    フェリス女学院中学・高等学校教諭、東京教育大学(筑波大学)附属中学校・高等学校教諭、文部省初等中等教育局中学校課、高等学校課教科調査官、信州大学教育学部教授、同附属中学校校長(併任)を経て、帝京大学教職大学院教授、日本エネルギー環境教育学会前会長。著書に「今、始めないと!エネルギー・環境教育」(東京書籍)など多数。