授業レポート
教材を活用した授業実践事例 4
- 実施校
- 東京都筑波大学附属中学校
- 実施日時
- 2021年7月1日 6校時
- 授業者
- 主幹教諭 関谷文宏
- 教科・科目
- 社会科(地理的分野)
- 実施学年
- 第1学年4組
実施内容
大項目B「世界の様々な地域」 中項目⑵ 世界の諸地域 ③アフリカ
電化によるアフリカ諸国の発展とSDGs達成への道筋を探ろう
- アフリカ州が達成すべき課題の把握が不十分だった生徒が、自己調整力を発揮し、明確に把握できるようにすること。
- アフリカ州が達成すべき課題の解決がどんなに困難であることがわかっても、あきらめることなく、どのような優先順位や方法で段階的に取り組むべきかを粘り強く考えられるようにさせること。
アフリカ州の人々や私たちにとってのよりよい社会の実現を視野に、そこで見られる課題を主体的に追究、解決しようとする態度を養うとともに、多様な生活文化を尊重しようとすることの大切さについての自覚を高めること。
「アフリカ州の国々を成長させる方法」を考え、「実現のしやすさ」「効果の大きさ」「かかる費用」などの指標を用いて座標軸上で表現する活動を行っていた。本時では、付箋に書いた項目を「電化を進めればどのように成長できるか」という視点で整理し直す作業を行う。
授業概要
導入
学習内容・学習活動
SDGsの中で、アフリカ州の国々で最も優先的に解決しなければならない目標を考え、発表する。
- 冊子「SDGs×電気」の配布
- DVD「SDGs×電気」概要編
指導上の留意点
これまでに学習した内容を振り返らせ、解決すべき課題の優先順位も考えさせる。

展開
学習内容・学習活動
- もしアフリカ州の国々で電化が進めば、どのように成長していくことができるかを前時までの活動を活用しながら考え、発表する。
- さまざまな発電方法には長所・短所があることを踏まえ、アフリカ州の国々における最適な発電方法を考える。
指導上の留意点
- 電化によって日本人の生活はいつ頃からどのように変わったかを考えさせる(小学校の学習内容を振り返る)。
- 4人1組の活動とする。
- 冊子や映像の資料を通してさまざまな発電方法とその課題に気付かせる。

まとめ
学習内容・学習活動
- 「電化」という具体的な変化によって達成可能なSDGsがあること、達成に至るまでの困難さを確認する。
- 日本のエネルギー事情に関する関心と課題意識を高める。
指導上の留意点
- SDGsを達成する上で、電気が重要であることに気付かせる。
- 資源の少ない日本にとって、再生可能エネルギーの利用が特に重要であることに気付かせる。
授業で使用した資料
参考資料
【単元設定の理由】世界の諸地域の学習を、なぜアフリカ州から始めるのか。
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まずはどの地域から始めても、その理由を教えることよりも、考えさせることに意味がある、という次元が一つ。以下は、「なぜアフリカ州から学習を始めるのか」の予想を書かせたもの。
- アフリカ州を学ぶことの意味や意義に生徒自身が気づく必要があること、そして自分で見つけたアフリカの何がどのような意味で重要な課題なのかを自ら説明できるようにすることがポイント。
- 「覚えることが少ないから」といった理由は、中学校の学習では成立しえないものだということをわからせたい。
- 生徒に納得させる理由としては、2100年の国別人口予測の図を見せて、「アフリカがこれからの数十年で最も急成長する地域」で、海外赴任先がアフリカになる人も増えると考えられるから、など。
- 歴史学習がアフリカから始まり、近代と現代のアフリカまで歴史を大観させられる利点も。「植民地」がいつなぜどのように生まれたか、世界の宗教や言語の分布とともに考えさせるので、アフリカ州の次は南アメリカ州を学習することになる。
- 地歴並行という観点からは、エジプト文明発祥の鍵を地理的な見方・考え方で学習できること。さらには宗教の学習とも関連させて、「イスラム圏」という新しい地域像をイメージさせられること。「アフラシア」という地域像も。
- 地理学習の観点からは、赤道をはさんで南北に大きく広がる唯一の大陸として、気候や人々の生活と環境を学習させられること。乾燥気候となる理由を緯度と寒流から説明できること。
- 実際の授業では、穀物といも類の国別供給量、食料とエネルギーの自給率、1人当たりの国民所得などのデータをもとに、地図帳の資料図から(統計のページを見ると答えがわかってしまうので)アフリカ諸国をいくつかのグループに分類して、データが示す国を予想するという課題ができること。
- SDGsの観点から、アフリカにどのような支援が必要で、どのような支援は不適切なのかを考えさせられること。引き続き南アメリカ州を学習して環境問題を考えさせられること。
- たまたまマリの国連機関(ユニセフの子ども保護専門官)で働く方やアフリカに進出している企業の方とzoomでインタビューをさせてもらったばかりだということ。
- 用意している教材としては、『コーヒーで読み解くSDGs』(ポプラ社)でルワンダのコーヒー。コロンビアのコーヒーと学習は続く。NHN特派員の現地レポート『アフリカ 人類の未来を握る大陸』(集英社新書)では合計特殊出生率7.0のニジェールの話など。
- 最大の理由は、地図帳の1ページから順番に資料を見ながらアフリカ州の特徴を次々に説明させることができること。人口ピラミッドや統計資料などからもアフリカ州の特色は説明できる。
授業を実施して
授業中の生徒の様子
前時では「アフリカを発展させるために何が必要か」という漠然とした問いで様々なアイデアを出させていたのに対し、本時では「アフリカで電化が進んだら」という具体的なスタートラインが設定されたので、成長・発展へのアウトラインが整理されていった。他のグループの発表を聞かなければならない場面があったが、グループ内または個人でさらに追究を続けたかった生徒もいた印象である。
世界の電気事情を示す夜の衛星写真をプロジェクターで投影するとき、本当に夜のように暗くすることで、はっきりと明るい地域が判別できるので、教室の電気を落とした瞬間が最も生徒たちが盛り上がったタイミングだった。
「SDGs×電気」教材の活用について
本時では「アフリカではどのようして電気をつくればよいだろうか」という問いも設けたが、教材では8つの発電方法とそのメリット・デメリットがコンパクトにまとめられていたのと、SDGsの視点を持った上での考察だったので、「太陽光発電」「風力発電」という提案が多かった。
河川が少なく水が利用できない地域で、水の代わりに砂を用いた「砂力発電」ができないだろうかというアイデアも浮かんでいた。授業後には、「大きな砂時計を作って、小さな力で回転させることができたら・・・」などと夢が膨らんでいた。