東京都消費生活総合センター主催
令和4年度
すぐに役立つ! 教員のための消費者教育講座
2022年7月25日~8月9日にて開催された「教員のための消費者教育講座」(主催:東京都消費生活総合センター)では、持続可能な社会に向けて、主体的に選択・行動ができる消費者を育むことを目的に、最新の情報や授業に役立つ実践事例などを紹介する教育講座が実施されました。8月8日には、動画教材『THE POWER OF ELECTRICITY 〜電気の力で未来をつなぐ〜』「File.001 エネルギー×地球温暖化 〜水族館〜」を使った講座が行われました。
魚を見て楽しむだけじゃない、水族館から学べる大切なこととは? 地球温暖化のカギを握っているのは、海!?
講師の金田先生の問いかけを、ぜひ子どもたちと一緒に考えてみてください。
本レポートでは、金田先生の講座でのご説明内容を紹介します。

講師:金田武司氏
株式会社ユニバーサルエネルギー研究所 代表取締役社長
慶應義塾大学理工学部卒、東京工業大学大学院総合理工学研究科エネルギー科学専攻 博士課程修了(工学博士) 三菱総合研究所エネルギー技術研究部次世代エネルギー事業推進室長を経て、2004年より株式会社ユニバーサルエネルギー研究所代表取締役社長。NEDO技術委員、世界エネルギー会議委員等歴任。著書に『東京大停電 電気が使えなくなる日』(幻冬舎)など。
講座の流れ
- はじめに 動画教材『エネルギー×地球温暖化〜水族館〜』の視聴
- 1.水族館が使うエネルギーの量は?
- 2.生きものたちの環境を維持するための工夫
- 3.地球の中で生かされている人間
- 4.電気を使うメリット:ヒートポンプの仕組み
- 5.地球温暖化の原因
- 6.海を大切にしなければならない理由
1.水族館が使うエネルギーの量は?
大型の水族館が1年間に使う電気の量は、約2000万kWh。これは一般家庭の約5000軒分に相当します。ひとつの水族館で、これほどの電気を使うということです。
魚1匹あたりではどれくらいのエネルギーを使っているのでしょうか。人間1人が必要なエネルギー量と同じように計算してみると、イワシやサバの大きさの魚1匹で年間180kWhになりました。一方、1人の人間が1年間生きていくために使うエネルギーの量は、一般的に1000kWhくらいです。人間が1000kWhなのに、小さい魚が180kWhも使っている。体積比で考えたら、人間よりもはるかにエネルギーを使っていることがわかります。

2.生きものたちの環境を維持するための工夫
北の海に棲む不思議な生きもの、クリオネ
クリオネの水槽の温度は1.5℃前後に保たれています。私たち人間にとって0.5℃はたいした変化ではないかもしれませんが、クリオネを健康な状態に保つためには小数点以下の単位で水温を調整しなければならず、そのために電気が使われています。ほんのわずかな温度変化が、生きものの生死に関わるからです。 水族館に行ったときには、今見ている水槽がどれくらいの温度で、どれくらい正確にコントロールされているのかをぜひ知ってもらいたいと思います。

自然の環境を人工的につくり出すことの大変さ
人工的に自然の海で生きる魚たちの環境を作ろうとすると、電気でモーターを回して水流を作り、水質・水温をコントロールし、自動で餌やりをしなければなりません。膨大なエネルギーを使わなければできないことを、自然はやっているのです。地球のシステムがいかに素晴らしいかということですね。水族館の裏側を見ることによって、地球が当たり前のように成し遂げていることを人間がやるのは大変だということに気づくことができます。 水族館によっては、餌やりや水質・水温のコントロールなどを見学できる「バックヤードツアー」を開催しているところもあります。水族館の表側で魚たちを見て楽しむことも大切ですが、裏側で人や機械がどんなふうに働いているのかも知って、地球が自動的に行っていることを学んでいただきたいと思います。

3.地球の中で生かされている人間
水槽の環境を守ることは、我々にとっての地球を守ること
魚たちにとって水槽の環境は、私たちの地球と同じ。人間が保護しなければ彼らは生きていくことができません。これは、我々が自分の住む地球環境を守らなければいけないことと同じだと思いませんか?
人間は地球という丸い水槽の中に生かされている生きものです。水族館の水槽で泳いでいる生きものを見ることは、私たち自身を宇宙の遠い場所から見ているのと同じなのです。

海水の温度が上がると…
地球環境では海が決定的に重要な役割を持っており、海の温度変化は大気中の二酸化炭素濃度に大きな影響を与えます。私はビールが好きでよく飲みますが、ビールを温めて飲む人はあまりいません。なぜだと思いますか? それは、温めると中に溶けている炭酸ガスが出ていってしまうからです。炭酸飲料は冷やしておかないと炭酸が抜けてしまう飲み物なのです。
海も同じです。海の中には多量の二酸化炭素が含まれていて、海水の温度が上がると、その二酸化炭素が大気中に出てきてしまう。人類がどれほど「CO2削減!」と騒いでも話にならないほどの、桁外れの量の二酸化炭素が放出されてしまうのです。そして地球が温暖化すればするほど、ますます海から二酸化炭素が放出されてしまいます。
「正のフィードバック」で温暖化が暴走?
あることが起こり始めると、そのことが事象をさらに増長させる形で起きていくことを「正のフィードバック」といいます。つまり、海から二酸化炭素が出て大気が温暖化し始めると、ますます海から二酸化炭素が出ていってしまう。このような正のフィードバックが起きると、我々人間にはもうどうすることもできません。どんなに頑張っても元通りにはならないのです。地球を取り巻く海に含まれている二酸化炭素が実際に放出され始めたら、私たちはこの地球に住むことはできなくなってしまいます。だからこそ、二酸化炭素の排出を減らして海を守らなければならないのです。
4.電気を使うメリット:ヒートポンプの仕組み
水槽の温度をコントロールする高効率ヒートポンプ
水槽の温度をコントロールしているのは、高効率ヒートポンプ。私たちが日頃お世話になっている冷房・暖房などの空調設備と同じ仕組みで、冷媒を圧縮・膨張することによって温度を上げたり下げたりしています。
動画の初めにヒートポンプがずらりと並んでいる映像がありましたが、規模の大きさに驚いたのではないでしょうか。南極から温帯、赤道直下まで、さまざまな海の生きものの生育環境をコントロールするためには、あれほどの装置が必要だということです。
【用語説明】ヒートポンプ
ヒートポンプとは、空気中や地中にある熱を集めて冷暖房などに利用する省エネ技術で、気体を圧縮すると温度が上がり、膨張させると温度が下がる性質を活用しています。電気は熱を運ぶ動力としてのみ使われ、使用する電力の3〜6倍もの熱を効率よく生み出すことができます。空気熱や地中熱は太陽が蓄積した熱であることから、ヒートポンプは再生可能エネルギー利用技術として位置づけられています。

ヒートポンプで二酸化炭素の排出量を1460トン削減
水族館では、ヒートポンプを使用することで二酸化炭素の排出量を年間1460トン削減できました。この規模、かなり大きいということはわかりますが、あまり実感はできませんね。では人間はどれくらいの二酸化炭素を放出しているかというと、日本人の場合、1人1年間で約9トン。これは吐く息のことではなく、電力などのエネルギーを使うことによって放出される二酸化炭素をトータルして1人あたりの数値を割り出したものです。この数字を見ると、1460トンは相当な量であることがわかります。
二酸化炭素の排出を削減するためにはさまざまな技術があります。私たちは、常にそれを革新しながら削減する努力をし続けなければなりません。

5.地球温暖化の原因
二酸化炭素の役割
このチャプターは、「二酸化炭素はなぜ地球を温暖化してしまうのか」という問いに答えるために作りました。
地球の周りには二酸化炭素の層があり、二酸化炭素がないと地球は氷の塊になってしまう。子どもたちはこの映像を見て驚くのではないでしょうか。数億年前の地球は氷の塊でしたが、火山の噴火によって二酸化炭素がどんどん生まれ、二酸化炭素のおかげで私たちが生きられる大気環境ができたといわれています。二酸化炭素が地球環境にとってどのような働きをしているかを知ることは大切です。地球環境問題を考える一環として子どもたちに理解してもらえればと思います。

赤外線は二酸化炭素を通過できない
地球には太陽からの光が入ってきます。紫外線や赤外線など、いろいろな波長の光が太陽から放たれ、地球に届いています。これらの光をそのまま地球の外に放出していたら、地球の温度はプラスマイナスゼロで上がりません。でも、届いた光のエネルギーを地球が取り込めば、温度は上がります。地球が太陽の光をどんどん取り込んでしまう、それが二酸化炭素の力です。
なぜ二酸化炭素は光のエネルギーを取り込むのでしょうか。外から入ってきた紫外線などの短波長は、ものに当たると、いったん赤外線などの長い波長の光に化けます。ですからものが温まるときは、そこから赤外線が出ています。赤外線は二酸化炭素を通過できません。赤外線が宇宙の果てに行ってくれれば温暖化は起きないのですが、地球の周りには二酸化炭素の層があるため通過できないのです。
二酸化炭素が「温室効果ガス」といわれるわけ
光が外に逃げていってくれないので、大気がひたすら温まる。これが「温室効果ガス」といわれる所以ですが、このメカニズムはビニールハウス(温室)とまったく同じです。
考えてみれば、薄いビニールを1枚貼っただけでなぜ中が暖まるのか、疑問です。その理由は、あのビニールは赤外線を通さないからです。ビニールハウス内の地面や葉っぱなどに当たった太陽光が化けた赤外線は、ビニールから外に逃げることができず、熱がビニールハウス内に留まります。私たちは植物を育てるときに地球温暖化と同じことをやっているということです。
6. 海を大切にしなければならない理由
異常気象、自然災害の激化
近年ハリケーンが巨大化し、風速60m/秒などというとんでもないことになっています。これがどれほどのスピードなのか、ぜひ子どもたちに問いかけてみてください。風速60m/秒を時速に直すと約200kmです。最近では風速80m/秒(時速約300km)も観測されました。そのような風を体験することは通常ありません。人が立っていられるわけがなく、家も電柱も一瞬で飛ばされます。映像などで見ると、ハリケーンが吹き荒れた後は何も残っていません。屋根瓦が飛ぶというレベルではなく、そこに町があったこともわからないような惨状です。
ハリケーンだけでなく、異常な乾燥や熱波によって、昔は考えられなかった大規模な森林火災が発生しています。気温が摂氏50℃を越える地域が年々増加したり、テキサスで大雪が降ったり、かつては想像もつかなかったことが実際に起きているのです。

地球温暖化のカギを握る海
地球環境は今、大きく変わりつつあります。私たちは生息できなくなる「正のフィードバック」すれすれのところに立っているのだと感じざるを得ません。この地球環境問題が人類の活動の影響であることを私たちは今一度知っておくべきだと思います。
そして地球温暖化のカギを握っているのは海です。海水の温度が上昇すると、雲のでき方や風の吹き方が変わり、異常気象や自然災害の頻発につながると考えられています。映像では「海からの逆襲」という言葉をあえて使っていますが、たとえばハリケーンの巨大化や大規模森林火災、熱波、大寒波などは、海を大切にしなければならないことを教えてくれているのだと思います。我々は、ともすれば自分たちが生息している陸地の環境だけを整えようとしがちですが、地球というのは運命共同体で、海があってこそ陸地の環境も守られるのです。
このように、水族館について学ぶことは、地球環境について学ぶよい機会になります。水族館の生きものは地球という丸い水槽の中で生かされている我々人間と同じだということ、地球環境を守るために海を大切にしなければいけないことを、子どもたちに知って、感じて、考えていただければと思います。
